涙液を使用する検査

I.涙液検査の現状

涙液検査は、眼表面の病態を検索する眼局所の臨床検査として注目されている。内科領域では、血液検査が診断、治療効果判定などを行う際のルチーン検査となっているが、眼科医にとっての涙液検査が内科医の血液検査と同等の臨床的有用性を有するには、診断、重症度判定、治療効果判定などを適切に行える涙液中バイオマーカーの確立と測定法の実用化にあると考えられる。

バイオマーカーは、1)生体由来物質で、生体内の生物学的変化を定量的に把握するための指標、2)疾患の状態や重症度、治癒の程度に相関して定量的に変化する指標とされている。現在、サイトカイン、ケモカイン、成長因子などに代表される炎症関連物質や各種の抗体価などがバイオマーカーの候補となり、病態との関連や臨床的意義に関する研究が続けられているが、実用化された臨床検査は少ないのが現状である。

実用化された涙液臨床検査法は、イムノクロマトグラフィ(イムノクロマト)法を応用した、涙液総IgE迅速検査キットだけである。しかし、この検査法は、定性法であるために、診断には優れているものの、定量的に評価するバイオマーカーを使った検査法としては、不十分な点も残されている。

II. 涙液検査の方法

臨床検査に用いることができる涙液量は、微量である。したがって、臨床上必要とされるデータを得るための臨床検査項目の設定、および測定を行うために必要な涙液量を十分に確保することが涙液検査の重要ポイントである。また、バイオマーカーによる涙液検査の場合には、測定結果に定量性を持たせることが必要となるため、適切な涙液採取法と測定法との組み合わせを検討する必要がある。

1)涙液採取法

a)毛細管法

毛細管法は、ガラス毛細管や微量採血管などを用いて、結膜嚢内に貯留している涙液を採取する方法である。角膜や結膜に触れないように注意して、毛細管の先端を涙液メニスカスに接触させて涙液を採取する(図1)。本法の利点は涙液を直接採取できることで、定量性にも優れている。しかし、欠点としては、涙液量や涙液の粘稠度により涙液採取量や採取の難易度が不安定になりやすいことがあげられる。

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b)濾紙法

濾紙法は、濾紙を用いて涙液を採取した後、溶出して涙液検体を作成する方法である。実際の手技は、シルマー第1法に準じて、シルマー試験紙を用いて涙液採取を行う(図2)。シルマー試験紙の1 mmは、1μLの涙液量に換算できるため、採取した涙液量を把握しやすいことや、シルマー試験に慣れている眼科医にとっては手技が簡単であることなどが利点としてあげられる。また、採取時に眼表面の眼脂や炎症細胞のコンタミネーションがあることが欠点とされる。

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また、溶出液の種類により、目的とする物質の溶出率が異なるため、溶出液の選択が重要である(図3)。頻用される溶出液としては、0.5M NaCl + 0.5% Tween 20添加0.01M リン酸緩衝液や0.3 mol/L NaCl + 0.1% Tween 20含有0.05 mol/Lトリス塩酸緩衝液(DAKO Japan)などがある(図4)。濾紙からの溶出は、溶出率80%前後、希釈率20〜40倍となるように設定すると良い結果が得られることが多い。

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c)その他

涙液採取方法として、スポンジやニトロセルロース膜などを結膜嚢内に留置して行う方法が報告されているが、採取した涙液の定量性に欠けることが欠点である。

2)測定法

a)イムノクロマトグラフィ法

イムノクロマト法は、抗体がメンブラン上を毛細管現象により移動する際に、検体中の抗原、色素標識抗体および捕捉抗体の3者により抗原抗体複合体が形成されるが、その発色した標識色素を目視で観察して測定する方法である。イムノクロマト法のストリップは、①検体を滴下する場所としてのサンプルパッド、②金コロイド標識抗原特異的抗体が存在するコンジュゲートパッド、③ニトロセルロース膜からなるメンブラン、④展開が終了した余分な検体および展開液を吸収する吸収パッドにより構成されている(図5)。メンブラン部分には、抗原特異的抗体が固相されているテストラインと標識抗体特異的抗体が固相されているコントロールラインとが作られている。測定可能な物質は、薬剤、ウイルス、細菌、毒素、ホルモンなどに代表されるペプチドまたは蛋白である。

イムノクロマト法は、検体量が少ない場合の測定法として有用であるが、目視による判定のばらつき、定量性に乏しい点などが欠点とされている。これらの欠点を捕捉する目的で、テストラインの濃淡をイムノクロマトリーダーで読み取り、数値化して判定結果にばらつきが出ないようにする方法や半定量する方法が用いられている。

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b)ELISA法(enzyme-linked immunosorbent assay)

ELISA法により抗原を測定する場合は、特異抗体を固相化したマイクロカップに検体および酵素標識特異抗体を添加して反応させた後、酵素基質と反応させて発色させ、吸光度を測定して検体中の目的とする物質の量を測定する方法である。抗原と抗体との反応系の違いにより、競合法とサンドイッチ法との2種類がある(図6)。

本法は、定量性に優れた測定方法である。しかし、標準液を用いて検量線を作成して定量化するために、標準液が無い場合の定量化が問題となる。

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c)protein-array法

Protein-array法は、測定原理はELISA法などと同様であるが、複数の特異抗体をメンブラン上に固相するか、特異抗体を固相したビーズを複数種類用いることにより、複数の物質の同時測定を可能にした方法である。検体量が限られる場合の測定法として有用であり、少量の検体から、多くの検査情報が得られる点が利点である。測定方法として、anti-body array法(図7)やmultiplex bead immunoassay法などがあげられる。

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III. 実用化された涙液検査

1)涙液総IgE検査キット

アレルギー性結膜炎の迅速診断を目的として、涙液中の総IgEを定性的に測定して診断するキットがアレルギー性結膜炎迅速診断キット(アレルウォッチ®涙液IgE, わかもと製薬/日立化成)として市販され、保険適応となっている。

a)原理

アレルギー性結膜炎迅速診断キットは、シルマー試験による濾紙法に類似した方法で涙液採取を行う紙部分をサンプルパッド部分に連結させ、測定部分には小型のイムノクロマト法を用いた検査ストリップである。

b)方法と検査時の注意点

アレルギー性結膜炎迅速診断キットの検査方法は、①涙液採取、②イムノクロマトの展開、そして③判定の3つの段階に分けられる。

涙液採取での注意点は、涙液採取の手技を一定に維持することである。検査手技の安定により検査結果のバラツキを減少させ、結果の信頼度を向上させることが重要である。シルマー試験とは異なり、検査ストリップは眼瞼の中央付近に装着、留置すると涙液が採取しやすくなる。留置時間もある程度一定にする必要があり、約3分程度が適当である。涙液が少なく3分経ってもコントロールラインまで達しない場合には、①ゆっくり瞬目させる、②下眼瞼をゆっくり下方に引くなどの操作を繰り返し、それでも不十分な場合には、③反対眼に装着し直す。ほとんどの場合にはこれで涙液採取が可能になる(図8)。

イムノクロマトの展開では、ストリップの涙液採取部がチューブの内側に張り付いて展開液面から浮いていると展開ができないので、涙液採取部をチューブの底にきちんと入れることが大切である。展開不良が起こりやすいケースとしては、①涙液採取が過剰な場合、②炎症等により涙液の蛋白濃度が濃い場合、③展開液に十分漬かっていない場合が考えられる。展開時間は10分間と添付文書等に記載されているが、展開不良の場合には20分、30分と展開時間を延長することが推奨される。

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c)結果判定

日本眼科アレルギー研究会では、アレルギー性結膜炎迅速診断検査キットの市販後調査を全国28施設で施行した。結果を表1に示したが、病型により陽性率が異なったため、アレルギー性結膜疾患の病型により偽陰性に注意をして判定することが必要であると考えられた。本検査法における全症例での陽性率は72.2%であった

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IV. 涙液検査による臨床研究

1)アレルギー性結膜疾患に関連した涙液検査

a)抗原特異的IgE抗体

アレルギー性結膜疾患は、I型アレルギー反応により生じる角結膜の炎症疾患である。したがって、アレルギー性結膜疾患の発症には、抗原(アレルゲン)特異的IgE抗体が深く関与している。涙液中の抗原特異的IgE抗体は、眼局所での抗原特異的IgE抗体の存在を検査することが可能であるとともに、アレルギー性結膜疾患の診断および原因アレルゲンの推定に役立つと考えられている。

研究 1:涙液中スギ・ネコ・ダニ特異的IgE抗体の迅速診断
  • 目的:季節性アレルギー性結膜炎における涙液中スギ特異的IgE抗体迅速診断の有用性に関する研究
  • 対象:スギ花粉飛散期に初診した未治療の季節性アレルギー性結膜炎症例22例(年齢:26.0±20.8歳(平均±標準偏差)(レンジ:2〜79歳))
  • 方法:①涙液採取法:シルマー試験第1 法に準じた濾紙法による涙液採取。②測定法:イムファストチェック®J1(三菱化学メディエンス)
  • 結果:涙液中抗原特異的IgE抗体の陽性率は、スギが22例中22例全例(100%)、ネコが22例中2例(9.1%)、ダニが22例中10例(45.5%)であった。スギとダニとの関係を検討した結果が図10であるが、10歳未満の小児の群(小児群)では、スギ単独感作例よりもスギ・ダニ重複感作例が多く、10歳以上の小児から成人までの群(成人群)ではスギ・ダニ重複感作例よりもスギ単独感作例のほうが多い傾向を示した。スギ花粉飛散期に涙液中スギ特異的IgE抗体を検索することにより、スギ花粉結膜炎の診断を確実に行う事が可能であった(図11)。

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  • 考按:涙液検査を用いて、眼表面の抗原特異的IgE抗体を評価することにより、アレルギー性結膜疾患の診断をより確実なもに出来ると考えられる。また、スギ花粉結膜炎症例は、スギ単独感作例とアレルゲン重複感作例とに分けられることが解り、両者間での病状の相違や予防法についての検討が必要であると考えられた。
b)Eosinophil cationic protein (ECP)

CPは、好酸球の特異顆粒に含有される組織障害蛋白の中の一つである。涙液中のECP値は、角結膜組織中の好酸球炎症の程度を示す指標と考えられており、アレルギー性結膜疾患の重症度とも良く相関すると考えられている。

研究 2:アレルギー性結膜疾患における涙液ECP値
  • 目的:アレルギー性結膜疾患における涙液ECP値測定の有用性の検討。
  • 対象:アレルギー性結膜疾患診療ガイドラインの基準に基づき準確定診断されたアレルギー性結膜疾患。
  • 方法:①涙液採取法:シルマー試験第1 法に準じた濾紙法による涙液採取。②測定法:ELISA法
  • 結果:涙液ECP値の測定結果を表2に示した。健常対照者では、平均7.4 ng/mlであり、95パーセンタイル値は19.4 ng/mlであった。そこで19.4 ng/mlをカットオフ値として、カットオフ値以上を陽性、カットオフ値未満を陰性として診断率を検討したところ、春季カタルでは100%と高値、季節性アレルギー性結膜炎では30.1%と低値と病型により診断率が異なることが判明した。また、これらの診断率の傾向は、結膜擦過塗抹標本による好酸球検査(図12)の陽性率に類似するものであった。また、免疫抑制点眼薬による治療を行った春季カタル症例の涙液ECP値によりモニタリングしたところ、臨床症状が軽快するにしたがって、涙液ECP値が低下した(図13)。

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  • 考按:涙液ECP値は、結膜での好酸球炎症を反映して、病型や重症度により異なった測定値を示すとともに、治療により低下する。したがって、アレルギー性結膜疾患の重症度判定や治療効果判定に有用な検査である。アレルギー性結膜疾患におけるアレルギー炎症の涙液中バイオマーカーとして有用であると考えられた。
c)サイトカイン・ケモカインプロファイル

涙液中のサイトカイン・ケモカインプロファイルを検討することにより、角結膜組織内に生じている炎症反応の病態についての検討が可能であるとされている。サイトカインおよびケモカインは相互作用により病態に与える影響が変化するとされ、サイトカインネットワークなどとして複数のサイトカインの関連が検討されている。したがって、涙液中のサイトカインおよびケモカインを評価する場合には、サイトカインプロファイル、ケモカインプロファイルとして複数のサイトカインおよびケモカインを同時測定して比較する手法がとられることが多い(図14)。図14にサイトカインプロファイルを検討した代表例を示すが、季節性アレルギー性結膜炎(SAC)と春季カタル(VKC)とでは、明らかにサイトカインの発現パターンが異なっている。

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研究 3:春季カタルにおける増殖性結膜病変に関する涙液中サイトカインの検討
  • 目的:増殖性結膜病変を有する春季カタルおよび巨大乳頭性結膜炎における涙液中サイトカインプロファイルの検討。
  • 対象:春季カタルおよび巨大乳頭結膜炎
  • 方法:①涙液採取法:シルマー試験第1 法に準じた濾紙法による涙液採取。②測定法:anti-body array法(Ray Bio® Human Inflammation Antibody Array , Ray Biotech社)
  • 結果:春季カタルおよび巨大乳頭結膜炎の両者に共通して有意に増加していた因子は、可溶性IL-6受容体(soluble IL-6 receptor: sIL-6R)であった。有意差がみられないが両疾患に共通して増加傾向を示した因子は、IL-6、macrophage-colony stimulating factor (M-CSF)、tissue inhibitor of metalloproteinases-2 (TIMP-2)などであった。また、eotaxin-2は、春季カタルで有意に増加していたが、巨大乳頭結膜炎では増加傾向を示すのみであった。Th1サイトカインおよびTh2サイトカインに関しては、個体差がみられ、春季カタルで増加傾向があったが、有意差はなかった。

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  • 考按:巨大乳頭は、増殖性結膜病変の代表的所見である。巨大乳頭を有するがアレルギー学的背景と重症度が異なる春季カタルと巨大乳頭結膜炎とに共通するサイトカインおよびサイトカイン関連因子について検討した。両者に共通してsIL-6Rが有意に増加し、IL-6が増加傾向を示したことは、IL-6とsIL-6RとからなるIL-6/ sIL-6R複合体が増殖性結膜病変形成に影響している可能性が示唆された。また、eotaxin-2の増加は、巨大乳頭の病態に好酸球炎症が強く関与していることを示していると考えられた。

2)感染性角結膜炎に関連した涙液検査

a)特異的分泌型IgA抗体

分泌型IgA(sIgA)は、粘膜組織に存在する特有の免疫グロブリンであり、涙液中にも多く含まれ、血清中のIgAとは区別されている。sIgAは、生体防御を担う免疫グロブリンであり、感染症に対しては、微生物の粘膜上皮接着抑制作用、毒素やウイルスに対する抗体中和作用などがあるとされている。

特異的sIgA抗体は、感染症診断のマーカーやインフルエンザなどの粘膜を介して感染する微生物に対する獲得免疫を評価するマーカーとして有望とされているが、いまだ不明な点が多数残されている。涙液中の特異的sIgA抗体の検討は、sIgAの臨床的意義を検討できる他、sIgAを通して角結膜感染症の病態の新たな側面が見えてくる可能性が考えられる。

研究4:単純ヘルペスウイルス特異的sIgA抗体価
  • 目的:涙液中単純ヘルペスウイルス特異的sIgA抗体(HSV-sIgA)の単純ヘルペス角膜炎診断における有用性の検討。
  • 対象:①上皮型単純ヘルペス角膜炎(EK)、②実質型単純ヘルペス角膜炎(SK)、③非ヘルペス性角膜炎(NH)
  • 方法:①涙液採取法:シルマー試験第1 法に準じた濾紙法による涙液採取。②測定法:ELISA法
  • 結果:涙液中HSV-sIgA抗体価は、対照群(18 NU/mL(中央値))と比較してEK群38.5 NU/mL(Kruskal-Wallis H-test:P < 0.01)、SK群98 NU/mL( P < 0.001)で有意に高値を示した。また、NH群(22 NU/mL)と比較して、SK群は有意に高値であった(P < 0.05)。また、陽性率はヘルペス群と非ヘルペス群との間に有意差があり(Χ2 検定:P < 0.001)、感度は61.0%、特異度は83.6%であった。

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  • 考按:涙液中HSV-sIgA抗体は、実質型単純ヘルペス角膜炎症例で有意に高値であった。この結果は、ウイルス培養、蛍光抗体法および核酸検査法などの既存の検査法では診断が困難であった実質型単純ヘルペス角膜炎に対して有望な診断法となる可能性が示唆された。また、健常対照における獲得免疫の評価、上皮型単純ヘルペス角膜炎に対する涙液中HSV-sIgA抗体の動向については今後の課題である。
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