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眼表面再建術

はじめに

眼表面は角膜および結膜上皮により被覆されている。角膜上皮の幹細胞は角膜輪部の基底部に存在し、眼表面を維持している。輪部の角膜幹細胞が消失病態を角膜上皮幹細胞疲弊症と呼び、結膜上皮の侵入により視力障害を来す。このような病態では、保存的治療には限界があり、角膜上皮移植を主体とした眼表面再建術が必要となる。

1.幹細胞疲弊症

臨床所見ではヒト輪部の上下方向にとくに明瞭にみられるpalisade of Vogt(POV)という皺様構造の観察がstem cellの健常性を評価する方法として有用である。角膜上皮幹細胞疲弊症ではPOVの消失を認め、結膜上皮が角膜に侵入する。軽症例では中央部に角膜上皮が残っている場合があるが、重症例では角膜全体を結膜上皮が被覆されてしまう。フルオレセイン染色による結膜上皮細胞の角膜への侵入の観察やimpression cytologyにより角膜上での杯細胞の存在が確認されればほぼ診断が確実となる。原因としては主として下記の4つのカテゴリーの病態が関与する。

  1. 外的要因により消失
    熱、化学外傷や薬剤毒性といった外的因子のために幹細胞疲弊が生じる。
  2. 内的要因により消失
    眼疾患があることにより、幹細胞疲弊を生じる。Stevens-Johnson症候群、眼類天疱瘡(Ocular cicatricial pemphigoid; OCP)、GVHDなどが挙げられる。
  3. 先天的な欠損
    胎生期における発生異常により、輪部の形成不全、幹細胞疲弊に至る。無虹彩症(aniridia)と強膜化角膜などがある。
  4. 腫瘍性疾患
    輪部を原発とする重層扁平上皮癌などでは進行により角膜上皮が疲弊する。

治療法の選択―保存的治療と手術療法

輪部疲弊症では重症例では最終的に結膜上皮が角膜内全面を被覆し、保存的治療には限界があり、外科的治療が必須となってくる。

1)保存的治療

1.手術が必要でない場合

部分的な輪部疲弊症が存在しても瞳孔領が角膜上皮で維持されており、視機能が安定していれば手術適応はない。また、角結膜上皮の角化を含む重度のドライアイや、表皮化が進行したような重度な瞼板異常を伴う症例においては、術後上皮化が得られにくいことなどから、現在のところ、手術適応については慎重に判断する必要がある。

2)手術療法

1.急性期における手術の適応

Stevens-Johnson症候群や重症角膜化学外傷では急性期に全角膜上皮欠損に著しい炎症を伴い、遷延上皮欠損が持続することがある。強い炎症を伴った場合には角膜融解を来し、重症例では角膜穿孔に至る場合もある。
急性期に手術を行う目的は眼表面の炎症の沈静化、Ocular surfaceの安定化、重度の視力障害からの回避、瘢痕性変化の抑制といったことであるが、従来の上皮移植術では、術後上皮化が得られにくい。しかし、現在はマイトマイシンCや羊膜移植の併用により手術適応疾患が広がってきている。羊膜の利用は、羊膜自身に増殖組織の瘢痕化抑制、抗炎症効果があるため、瞼球癒着や結膜下組織の増殖といった重度な瘢痕化を来す瘢痕性角結膜疾患には有効な方法である。発症後に1か月を超えると実質融解のリスクが高いため消炎治療ののちに手術時期を決定する。

2.慢性期における手術の適応

慢性期では角膜上は瘢痕化しているため瘢痕組織除去後に上皮移植を行う。また実質混濁が強い場合や内皮機能不全を併発する場合は一期的もしくは二期的に表層角膜移植や全層角膜移植を併用する。慢性期では結膜瘢痕を合併する症例が多いため、術中マイトマイシンC塗布や羊膜移植を併用する。上皮の生着には既存するドライアイや炎症、眼瞼異常が大きく影響するため移植前に治療を行うことが理想です。

 

3)術式選択

1.自家組織もしくは同種移植の選択

上皮移植を選択する場合には自家組織移植もしくは同種移植を選択する。自家移植は原則、片眼性疾患に適応が限られる。同種移植を選択する場合は十分な免疫抑制を併用することが必要である。

2.エクスプラントもしくは培養上皮移植の選択

一般には上皮移植は角膜上皮形成術もしくは輪部移植を行う。上皮形成術は周辺角膜を用い、輪部移植は輪部を用いる。輪部移植では上皮増殖能は高いが抗原提示細胞を含み上皮型拒絶反応が高いことを念頭に術後免疫抑制を計画する。

3.培養上皮移植術

培養上皮移植は再生医療的な概念にて確立された方法である。羊膜、フィブリン、温度応答皿などの基質上に角膜上皮や口腔粘膜上皮を培養し、上皮シートとして移植を行う。広範囲に上皮を移植するため上皮伸展を待たずに眼表面を被覆することが可能である。両眼性では培養口腔粘膜上皮移植が唯一の自家移植となる。ただし表現型は角膜とは異なり、血管新生や重層化が生じる。視機能面からはデメリットであるが、眼表面バリアとしてはStevens-Johnson症候群などの重症例では重要なメリットとなる。現在は一部の施設で先進医療として認可を受けて実施されている。

4)術後管理

術後は拒絶反応の予防、感染症の予防といったことに注意する必要がある。また、上皮再生を促進するために術直後より治療用コンタクトレンズを装用させる。急性期、慢性期におけるいずれの場合も術後上皮化をはかることが重要であり、Stevens-Johnson症候群やOCPといった原発性の重症瘢痕性角結膜疾患では重症ドライアイを合併していることが多く、術後に上皮障害を生じやすい。眼表面を取り囲む環境因子としての涙液が不可欠であり、点眼治療が奏効しない場合では涙点閉鎖、涙点プラグ、瞼板縫合などの処置も必要となってくる。このような処置も不可能であるような重症な症例においては手術については検討する必要がある。

おわりに

眼表面再建術は数多くの難治性疾患で必要となる重要な外科的治療方法である。手術は輪部疲弊を代償する上皮移植と結膜瘢痕を再建する羊膜移植が主体となる。また眼瞼形成やドライアイ治療など眼表面環境を正常化させることが必須である。
また術式異常に術後管理が重要であり、涙液減少や感染リスクなどを十分に把握して治療選択する必要がある。

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