1.はじめに
オキュラーサーフェス診察は細隙灯顕微鏡に始まり細隙灯顕微鏡に終わると言ってもよいくらい、細隙灯顕微鏡が診察の中心にある。もちろん、細隙灯顕微鏡観察に入る前の主訴、現病歴、既往歴などの聴取が重要である事は言うまでもない。オキュラーサーフェス疾患の診察においてまず気をつけたいのは、主たる病変があると考えられる部位のみを観察するのではなく、オキュラーサーフェスを構成する角膜、結膜、涙液、眼瞼をオキュラーサーフェスという一体のものととらえながら診療に当たる事である。例えば、経験の浅い医師では、角膜潰瘍の患者ですと紹介状に書いてあると、角膜潰瘍の部分だけを細隙灯顕微鏡で観察してカルテに記載する場合が多いが、角膜病変は、結膜、涙液、眼瞼などの異常から発生してくることも多く、角膜だけでなく、まわりの結膜、涙液、眼瞼なども詳細に観察する必要がある。
2.細隙灯顕微鏡を用いた診察における照明法
実際のオキュラーサーフェスの診察の基本は細隙灯顕微鏡による観察であり、細隙灯顕微鏡の使い方、特に照明法に習熟する必要がある。そこでスリットでの各種照明法について述べる。
a. 直接照明法
スリット光の作る光学切片を観察する方法で、細隙灯顕微鏡の照明法の基本である。スリット光の強度は強めに設定する。特に病変の深さの観察に適する。図は斑状角膜変性症であるが、斑状の混濁が角膜の表層から深層まで存在する事が、直接照明法によって観察できる。
b.間接照明法
スリット光の近傍組織を散乱光で観察する方法である。スリット光の光学切片を直接観察するわけではない。浸潤や沈着病変の程度など角膜内病変の観察に適する。図は格子状角膜変性症における格子状混濁を観察した像である。
c. 広汎照明法
ディフューザー等で広汎に照明して全体を観察する方法である。病変のスクリーニング、病変の広がりの観察に適している。図は広範囲におよぶ角膜潰瘍と結膜充血を観察している。
d. 反帰光線法
虹彩面、眼底などから帰ってくる光線で観察する方法である。スリット光の角度を振って虹彩面や眼底からの反帰光線をうまく捉えるようにする。拒絶反応線や上皮浮腫など微細な変化の全体像を捉えるのに適している。図はスリット光の横にある角膜移植後拒絶反応線を虹彩面からの反帰光線で観察している。
e. 強膜散乱法
輪部付近に光を当て実質内を走る光束で浮かび上がる像を観察する方法である。スリット光の角度を振って輪部付近にスリット光を当て、角膜内を観察する。角膜内の浸潤や沈着の全体の広がりを観察するのに適した方法である。図はアカントアメーバ角膜炎の初期におけるradial neuritisの広がりを強膜散乱法で観察しているところである。
f. コバルトブルー照明
コバルトブルー照明をすると円錐角膜眼におけるFleisher’s ringが黒く浮かび上がり観察しやすくなる。
フルオレセイン点眼で生体染色した際にコバルトブルー照明をする事で、フルオレセイン染色された点状表層角膜症部や角膜上皮欠損部が明瞭に観察する事ができる。図は涙液減少型ドライアイ症例での角膜おける多数の点状フルオレセイン染色。
フルオレセイン染色とコバルトブルー照明にさらにブルーフリーフィルターを観察系に入れると結膜におけるフルオレセインによる染色を詳細に観察する事ができる。図は涙液減少型ドライアイ症例での球結膜における多数の点状フルオレセイン染色。
3.細隙灯顕微鏡による角膜内皮細胞の直接観察
角膜内皮細胞の密度や形状の定量的観察にはスペキュラーマイクロスコープが有用である。ただスペキュラーがなくても、細隙灯顕微鏡を用いる事でスペキュラーと同じ原理で角膜内皮細胞を直接観察する事ができる。少し細めで縦幅を短くしたスリット光を角膜に斜めから当てると表面から強く光の反射が帰ってくるポイントがある。そのポイントでスリットを固定して、そのスリットが内皮面にあたる部分を強拡大で観察する事で、角膜内皮細胞がずらっと並んでいる状態を見る事ができる。スペキュラーのある施設であれば、細隙灯顕微鏡を用いてこの方法でまず角膜内皮細胞を見ておき、同じ目をスペキュラーで測定して角膜内皮密度を測定してフィードバックをかける事で、細隙灯顕微鏡での見え方で大体の細胞密度を捉える事ができるようになる。
細隙灯顕微鏡での角膜内皮細胞観察