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角膜感染症(細菌性、真菌性、アメーバ)

感染性角膜炎の診療に関しては、眼感染症学会が公表した感染性角膜炎診療ガイドラインが詳しい。(日眼会誌111巻10号P772)ここでは、このガイドラインに基づいて、その要約を記載する。

☞ 臨床所見から推測する場合

Ⅰ 問診

感染性角膜炎の診断および治療において,詳細な問診は必要不可欠である。

1.発症の動機
契機 起炎菌
外傷 頻度的に細菌が多いが、真菌にも注意
コンタクトレンズ
(2W-FRSCL/定期交換SCL)
緑膿菌・アカントアメーバが多い
フルオロキノロン系抗菌点眼薬長期使用 レンサ球菌・MRSAが多い
ステロイド・免疫抑制薬投与 真菌(とくに酵母菌)に注意
ストレス・過労 ヘルペスを考える
2.発症の経過
経過 起炎菌
痛みが比較的軽く緩徐 真菌の可能性が高い
進行が早い 緑膿菌やレンサ球菌の可能性が高い
長期臥床 MRSAを考慮
完全に鎮静化後、再発する 単純ヘルペスウイルスを考慮
3.眼痛の程度
起炎菌 眼痛の程度
細菌・真菌 軽症であれば異物感程度・重症は高度
アカントアメーバ 高度
角膜ヘルペス 軽度

Ⅱ 臨床所見

1.細隙灯顕微鏡所見
上皮病変(樹枝状病変、地図状病変、星芒状病変)

上皮病変のフローチャートを図1に示す。

pic_01_055_01.png

1)樹枝状病変 ⇒ まず、HSV による病変かどうかの判断が大切。

ⅰ)HSVによる樹枝状角膜炎の特徴

①末端膨大部(terminal bulb)の存在
②上皮内浸潤の存在
③病変部以外の上皮は正常

ⅱ)HSVによる樹枝状と鑑別が必要な偽樹枝状を示す疾患の特徴

  〇 眼部帯状疱疹
①小さく細い、星芒状
②特徴的な皮疹と神経痛
③無疹性帯状疱疹(zoster sine herpete)では、皮疹なし
  〇 Epithelial crack line (薬剤毒性角膜症)
①角膜中央やや下方で水平方向、混濁
②時に隆起
③周囲に著明な点状表層角膜症
  〇 再発性角膜びらん(recurrent corneal erosion: RCE)
①病変部周囲上皮の接着不良
②上皮接着不良基礎疾患の存在(Meesmann 角膜上皮ジストロフィ、Reis-Bucklers角膜ジストロフィ、格子状角膜ジストロフィなど
③起床時の強い眼痛
④糖尿病や角膜外傷の既往
  〇 アカントアメーバ角膜炎
①不均一な点状・斑状・線状の上皮・上皮下混濁
②放射状角膜神経炎(radial keratoneuritis)
③強い毛様充血、眼痛
④コンタクトレンズの使用
⑤角膜ヘルペスとして治療されているケースが多い

2)地図状病変

樹枝状角膜炎が遷延化すると、拡大して地図状角膜炎を呈する。

地図状類似の病変を生じる原因 上皮欠損の特徴
角膜ヘルペスによる上皮欠損 Dendritic tail(樹枝状)が存在
外傷などの単純性上皮欠損 上皮欠損辺縁部や実質に混濁なし
細菌・真菌に伴う上皮欠損 実質の浸潤、前房の炎症反応あり
遷延性上皮欠損、栄養障害性角膜潰瘍 辺縁が平滑な楕円、辺縁上皮は混濁隆起
シールド潰瘍 辺縁が併発な楕円、上皮欠損底が均一灰白色、上眼瞼結膜巨大乳頭

3)星芒状病変

HSVによる星芒状角膜炎と他疾患の鑑別点は以下のとおり。

星芒状類似の病変を生じる原因 HSVとの鑑別となる特徴
眼部帯状疱疹の場合 前述
Thygeson 点状表層角膜炎の場合 両眼性・再発性。充血軽度
実質病変

中央部の潰瘍は感染や神経麻痺(角膜知覚低下)に、周辺部の潰瘍は自己免疫疾患や感染アレルギーに起因することが多い。鑑別診断のフローチャートを図2に示す。

pic_055_02.png

これら上皮、実質病変の特徴を踏まえて、細隙間灯顕微鏡所見のパターンを図3に示す。

pic_01_055_03.png

また、角膜後面沈着物を示す疾患、角膜浮腫を来す疾患を表1.2に示す。

表1.角膜後面沈着物を示す疾患
炎症性 非炎症性
・虹彩毛様体炎 ・Fuchs角膜ジストロフィー
・内皮型拒絶反応 ・落屑症候群
・角膜内皮炎 ・仮面症候群
・実質型角膜ヘルペス
・細菌性角膜炎
・真菌性角膜炎
表2.角膜浮腫を示す疾患
炎症性 非炎症性
・内皮型拒絶反応 ・水泡性角膜症
・角膜内皮炎 ・Fuchs角膜内皮ジストロフィー
・実質型角膜ヘルペス ・内眼手術後
・細菌性角膜炎 ・レーザー虹彩切開術後
・真菌性角膜炎 ・円錐角膜の急性水腫

Ⅲ 検査

1.塗抹・培養・感受性検査

外眼部には多くの常在菌が存在するため、検査結果と臨床所見を考慮して総合的に判断する。サンプルは,潰瘍周辺部の正常角膜との境界部分を円刃刀で強めに擦過して角膜実質を採取する。(図4)

pic_01_055_04.png

詳細については日眼会誌111巻10号P781(Appendix)を参照のこと。

1)細菌・真菌
通常、細菌では、血液寒天培地、チョコレート培地、真菌ではサブロー培地が選択される。嫌気性菌を疑う場合は嫌気ポーター使用。真菌は長期(約1か月)培養を行う。
2)アカントアメーバ
外注にて分離培養可能(保険非適応)。また一部の施設ではPCRを施行している。角膜擦過物の塗抹検鏡は難易度が高いが、コンタクトレンズケースからは検出が容易。
3)ヘルペスウイルス
ウイルス分離がゴールドスタンダードであるが、実際的ではないため、Polymerase chain reaction(PCR)法(保険非適応)あるいはELISA法、蛍光抗体法(保険適応)が行われる。血清抗体価の診断価値は高くはない。

Ⅳ 治療

治療については、下記が第一選択薬として推奨されるが、case by caseである。

細菌:表3

表3.真菌に対する標的治療
点眼・眼軟膏 全身投与
カンジダ属 0.1%ミコナゾール点眼
And /or
0.2%ジフルカン点眼
フルコナゾール
ホスフルコナゾール
糸状菌 ピマリシン点眼・眼軟膏+1%ボリコナゾール点眼
or
ピマリシン点眼・眼軟膏+0.1%ミコナゾール点眼
ボリコナゾール
or  アムホテリシンBリポソーム製剤
or ミカファンギン
or イトラコナゾール

真菌:表4

表4.細菌に対する感受性
ブドウ球菌群 レンサ球菌群 モラクセラ 緑膿菌 ブドウ糖
非発酵菌群
腸内細菌群
Β-ラクタム系
ニューキノロン系
アミノグリコシド系 × ×
マクロライド系
テトラサイクリン系 ×

アメーバ:三者併用療法(病巣掻爬・点眼薬・全身投与)

国内で入手可能なものとしては、ヨード点眼(自家調整)・グルコン酸クロルヘキシジン点眼(自家調整)・ピマリシン点眼・眼軟膏が有効とされる。

角膜ヘルペス:病型・病態によって、抗ウイルス薬と副腎皮質ステロイドの局所投与・全身投与を検討する。抗ウイルス薬眼軟膏の副作用に注意する。

☞ 菌種から推測する場合

Ⅰ 細菌性角膜炎:起炎菌と特徴

代表的な起炎菌は以下のとおり。

1.グラム陽性菌(球菌・桿菌)

球菌 肺炎球菌・ブドウ球菌・レンサ球菌
桿菌 コリネバクテリウム・アクネ菌
1)肺炎球菌
上気道などに存在するグラム陽性双球菌。限局性膿瘍であるが、生体防御能の弱い中央方向へ進行し、匐行性角膜潰瘍と呼ばれる。莢膜を有し、好中球による貪食に抵抗するため、重篤になりやすい。
2)ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌などのコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negative staphylococci:CNS)、いずれも起炎菌となり得る.角膜病変は限局性膿瘍。近年,耐性菌が増えている。
3)コリネバクテリウム
眼表面(結膜や眼瞼)の常在菌叢をなすグラム陽性桿菌。弱毒だが、角膜炎、結膜炎を来す。フルオロキノロン耐性が多くい。
4)アクネ菌
眼表面(結膜や眼瞼)の常在菌叢の一つである嫌気性のグラム陽性桿菌。遅発性眼内炎の主たる起炎菌として知られる。

2.グラム陰性菌(球菌・桿菌)

緑膿菌・モラクセラ・セラチア・淋菌など
1)緑膿菌
グラム陰性桿菌で、日和見感染菌。典型的には輪状膿瘍を伴った潰瘍で、周囲角膜はスリガラス状混濁。急速に進行し、穿孔を来す。コンタクトレンズ装用者やオルソケラトロジーレンズ装用者に注意。
2)モラクセラ
大型のグラム陰性双桿菌。眼角眼瞼結膜炎の起炎菌として知られているが、全身状態の不良例では角膜炎を生じる。
3)セラチア
グラム陰性の小(短)桿菌で、日和見感染菌。産生するプロテアーゼの多寡により種々の所見を示す。
4)淋菌(図33)
グラム陰性の双球菌。大量の膿性眼脂。急速に悪化して穿孔を来す。

3.非定型抗酸菌、放線菌(ノカルジア)

1)非定型抗酸菌
非定型抗酸菌とは結核菌以外の抗酸菌の総称。角膜炎の原因となるのはMycobacterium chelonaeとM. fortuitum 。外傷,コンタクトレンズ装用、LASIK術後に多く、境界不明瞭な淡い浸潤巣を呈する。
2)放線菌(ノカルジア)
土壌中に生息する放線菌。外傷やコンタクトレンズ装用に関連して発症し、境界不明瞭な淡い浸潤巣を呈する。

Ⅱ 真菌性角膜炎:起炎菌と特徴

植物による突き眼や農作業中の眼外傷に多い糸状菌と、コンタクトレンズ装用、抗菌点眼薬およびステロイド点眼の使用者に多い酵母菌に分類される。

1.糸状菌

フザリウム属の他、アスペルギルス属、ペニシリウム属、アルテルナリア属

特徴的所見は下記のとおり。

  • 白色ないし灰白色の境界不鮮明な病巣(hyphate ulcer)
  • 角膜内皮面に円板状に付着するendothelialplaque
  • 前房内の強い炎症と前房蓄膿
  • 糸状菌の中には角膜上皮下のごく浅層の実質に限局するものもあり

2.酵母菌

Candida albicans, C. tropicalis,C. parapsilosis,C.glabrata,C. krusei

C.glabrata,C. kruseiはアゾール系の抗真菌薬に感受性が低い。

特徴的な所見

  • 病巣は羽毛状だが、境界が鮮明な円形で角膜実質浅層に限局しており、細菌感染との鑑別が大切。
  • 進行すれば、endothelial plaqueおよび前房蓄膿を来す。

Ⅲ アカントアメーバ角膜炎:病態と特徴

アカントアメーバの感染病理

  • 栄養体とシストの形態があり、生育条件が悪化するとシスト化し薬物に抵抗する
  • 角膜中央部表層から感染を生じ、徐々に周辺へと拡大する
  • 初期には感染の進行は緩徐である
  • 炎症反応は一貫して高度であり、毛様充血や眼痛が著明である

1.病期と基本病変
病期:初期―移行期―完成期→(―消退期―瘢痕期).以下に初期と完成期の病変について掲載する。

1)初期(感染後~1 か月以内の時期)

①放射状角膜神経炎(adial keratoneuritis)
②偽樹枝状角膜炎
③角膜上皮・上皮下混濁(点状,斑状,線状)

2)完成期(1か月以降の時期)

①輪状浸潤、輪状潰瘍
②円板状浸潤
③豚脂様角膜後面沈着物、前房蓄膿

Ⅳ 角膜ヘルペス

1.上皮型角膜ヘルペス

1)病態
初感染の場合を除き、三叉神経節に潜伏感染している単純ヘルペスウイルス(HSV)の再活性化により、ウイルスが神経節から角膜上皮に到達し、上皮細胞に感染する。
2)基本病変

病型 特徴
樹枝状角膜炎 terminal bulb が特徴的で、病変部に細胞浸潤がみられる
地図状角膜炎 樹枝状病変が拡大・病変辺縁にterminal bulb を伴う
遷延性角膜上皮欠損 二次的変化としての上皮欠損

2.実質型角膜ヘルペス

1)病態
角膜実質細胞に感染したHSV に対する免疫・炎症反応。
2)基本病変

病型 特徴
円板状角膜炎 角膜中央にDescemet 膜皺襞を伴う円形の実質浮腫
角膜後面沈着物や免疫輪がみられる
壊死性角膜炎 円板状角膜炎の再発を繰り返しにより、角膜実質に血管侵入、瘢痕形成、脂肪変性し、そこに再発による実質浮腫、炎症を生じた状態
遷延性角膜上皮欠損 二次的変化としての上皮欠損

3.内皮型角膜ヘルペス(角膜内皮炎)

1)病態
ウイルスの増殖によるか、免疫反応が主体か、不明。HSV、VZV、CMV、ムンプスウイルスなど種々のウイルスで生じる。
2)基本病変

  • 角膜周辺部に生じる角膜実質浮腫と,後面沈着物
  • 角膜上皮に樹枝状病変や,実質中細胞浸潤を認めない
  • 前房に強い炎症を認めない
  • 内皮細胞の高度減少
  • 角膜輪部の炎症を伴う眼圧上昇

4.単純ヘルペスウイルス上皮型・実質型・内皮型ヘルペスの診断

  • 病巣部からのウイルス分離培養・同定.(実質的でない)
  • 上皮型角膜ヘルペスの確実な既往.Terminal bulbの存在
  • 再発性
  • 角膜知覚低下
  • PCR 法によるウイルスDNAの証明
  • ELISA、蛍光抗体法によるウイルス蛋白の証明

Ⅴ 眼部帯状疱疹:眼合併症

1)病態
VZVの初感染は水痘であり、ウイルスは三叉神経節に潜伏する。免疫能が低下に伴いウイルスが再活性化し、三叉神経第一枝領域、時に第二枝領域に有痛性の水疱とともに、角膜炎をはじめ様々な眼合併症を発症したものが眼部帯状疱疹である。
鼻背、鼻尖に皮疹がみられる場合には眼合併症は有意に高率となる(Hutchinson 徴候)。皮膚症状を欠く眼部帯状疱疹をzoster sine herpete と呼ぶ。
2)基本病型
HSV 感染症と異なり、多彩な眼合併症を生じる。

病型 特徴
偽樹枝状角膜炎 ①上皮表層の隆起した病巣
②中央の溝状陥凹がない
③Terminal bulbを認めないことが、HSVによる樹枝状角膜炎との鑑別点
多発性角膜上皮下浸潤 アデノウイルス結膜炎における多発性角膜上皮下浸潤に類似
円板状角膜炎 HSV 類似の円板状角膜炎がみられることがある
びまん性角膜浮腫・内皮炎 角膜内皮細胞障害による一過性びまん性の角膜浮腫
角膜炎の他、結膜炎、強角膜炎、虹彩炎、虹彩委縮・緑内障、まれに網膜血管炎、動眼神経麻痺、全眼筋麻痺、海面静脈洞症候群、視神経炎などがある
3)診断

  • 三叉神経支配領域の皮疹と神経痛
  • 血清抗体価(補体結合反応)の4 倍以上の上昇
  • 皮疹からの多核巨細胞やウイルス抗原の検出
  • 房水や角膜病変からのPCR 法によるウイルスDNAの証明

などを参考に診断する。

Ⅵ サイトメガロウイルス角膜内皮炎

1)病態
CMV の再活性化によって発症するが、免疫機能不全のない中高年の男性に多いため、機序については不明。
2)基本病型

  • コイン・リージョン、coin-shaped lesionを伴う
  • 角膜内皮細胞密度の減少を認め、進行すると角膜内皮機能不全に至る
  • 細胞浸潤、血管侵入を伴わない
  • 再発性・慢性虹彩毛様体炎を伴う
  • 眼圧上昇・続発緑内障を生じる
  • 片眼性・両眼性いずれもありうる
3)診断: 前房水を用いたウイルスDNA の証明が有用。
4)鑑別が必要な状況:

  • 拒絶反応としてステロイドによる治療を行っても、角膜浮腫が改善しない場合
  • 移植後、複数回拒絶反応を生じる場合
  • 過去にポスナーシュロスマンと診断されていて、内皮減少が著明な場合
  • 原因不明の水疱性角膜症
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