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角膜屈折矯正手術

はじめに

屈折矯正手術には角膜の形状を変化させる角膜屈折矯正手術、水晶体再建術、有水晶体眼内レンズ手術の3つが挙げられるが、国内においては高い安全性と費用の低価格化に伴いLASIK (laser in situ keratomileusis)が普及し、最もポピュラーな屈折矯正手術となっている。このLASIKに代表される角膜屈折矯正手術の歴史は古く、1930~40年代に順天堂大学眼科教授であった佐藤先生が角膜前後面切開を考案し臨床応用を行った。その後、水疱性角膜症にきたすことが報告され本術式は行われなくなったが、1970年代にはいりFyodorovらが佐藤氏の術式を改良した角膜前面放射状切開(RK : radial keratotomy)を報告した。RKは多施設studyが行われたが、屈折の日内変動や感染症、長期にわたる遠視化傾向の問題があり、徐々に手術が行われなくなってきた。現在、主流となっているLASIKはエキシマレーザーの開発に伴い誕生した。エキシマレーザーは193nmの紫外線レーザーでphotoablationという生体組織の分子間結合を切断・蒸散させる原理で角膜を切除する。1986年Marshallらはエキシマレーザーを用いて角膜を面上に切除するPRK(photorefractive keratectomy)を報告。その後、1990年にはPallikarisらが角膜表層にフラップを作成し、角膜内部にレーザー照射を行うLASIK(laser in situ keratomileusis)を報告し現在に至っている。

PRK(Photorefractive keratectomy)

PRKのエキシマレーザー照射は多くの場合、通常2段階となる。最初にPTKモードを用い約40~50μm上皮のみを切除し、その後PRKモードにより予定矯正量の実質照射を行う。照射径はPRKモードに比べPTKモードで0.5mm大きくとる。PRKの術後は大きな上皮欠損となるため、疼痛管理、感染対策のため治療用のコンタクトレンズを必要とする。術後経過に関しては、鎮痛剤の内服を処方とするが術後3日目までは疼痛が生じ、ある程度視力がでるようになるには1~3週間を要するため、事前に十分インフォームドコンセントを行うことが重要である。

LASIK(laser in situ keratomileusis)

LASIKは角膜表層(約120~160μm)にフラップを作成・翻転させ、露出した実質表層へエキシマレーザーを照射し角膜形状を変化させたのち、フラップを戻し終了となる。角膜表層にflapを作成することで、PRKで生じる術後疼痛を緩和させ、視力の改善もPRKと比較し早いため現在広く広まっている術式である。フラップ作成にはマイクロケラトームという電動ブレードを使用していたが、近年ではフェムトセカンドレーザーを使用することでより正確なフラップ作成が可能となっている。

術中合併症について

不完全フラップ

フラップ作成の際に吸引が不安定になると、ボタンホールや不正フラップといった不完全フラップが生じことがある。吸引不全の原因としては、特異な角膜形状(過度なスティープ角膜)、瞼裂の狭小、睫毛の混入などが挙げられるためそのような症例の場合は十分な吸引がかかっていることを確かめる必要がある。不完全フラップを生じてしまった場合は、レーザーを照射せず角膜が治癒するのを待ち再度治療計画を立て直す。

フリーフラップ

主にマイクロケラトームにてフラップを作成する場合、吸引リングのサイズが不適切な場合に、ヒンジ部分を残さないフリーフラップを生じることがある。フリーフラップを生じた場合は、照射面に問題がない場合はエキシマレーザー照射後、元の位置に正確にフラップを戻し、十分なドライアップをおこなった後、治療用のSCLをのせ終了とする。

偏心照射

現在のエキシマレーザー装置にはほとんどの機種で虹彩認証によるアクティブアイトラッキングが付属しており、偏心照射をきたすことは稀である。しかし、トラッキングを信用しすぎるあまり機器の故障などやトラッキングミスを生じた場合、照射ずれを生じることもある。トラッキングをかけた後も常にセンタリングを意識することは重要となる。

セントラルアイランド

レーザー照射面に水分がたまってしまうと、照射効率が低下し不整な切除面を形成することがあるため、照射面は均一にドライな状態を保つ必要がある。
現在では照射のプログラム変更により、ほとんど生じていない。

術直後の合併症について

epitherial ingrowth

フラップの接合に問題がある場合には術後にフラップ下に上皮が迷入してしまうことがある。迷入の程度が軽度であれば経過観察でよいが、乱視の拡大や範囲が拡大する場合にはフラップ下を洗浄し上皮を取り除く必要がある。

DLK (Diffuse Lamellar Keratitis)

多くは術後早期に (稀に術後数ヵ月後に発症したという報告もある) フラップ間のびまん性浸潤を認め、その程度によって以下の4つのステージに分けられる。

  • ステージ1:部分的浸潤で、周辺部に限局し瞳孔領は含まれない
  • ステージ2:軽度~中等度の全体に及ぶ浸潤
  • ステージ3:全体に及ぶ濃い浸潤
  • ステージ4:全体に及ぶ濃い浸潤で前房内炎症、毛様充血、視力低下を伴う

ステージ1,2ではステロイドの頻回点眼で症状改善を望めるが、ステージ3,4ではフラップ下の洗浄とステロイド点眼を早急に行う。

感染症

一般にLASIK後の感染症の起因菌は、他の術後のものとは異なる部分が多くさらにはフラップとベッドの層間への薬剤浸透性も低いことから、同じような治療を行っても十分な効果が得られないことを認識しなければならない。主な自覚症状は視力低下、充血、羞明、疼痛で術後1週間以内に発症することが多い。細隙灯顕微鏡では局所の浸潤を認め、DLKとの鑑別が重要である。起因菌は術後1週間以内であればぶどう球菌、連鎖球菌のようなグラム陽性菌が多く、術後10日以降であれば非定型抗酸菌、Nocardia、真菌が多いとされている。治療としては発症時期に関わらず、積極的にフラップリフトをし角膜病巣擦過、培養、塗沫を行う。同時にフラップ洗浄も行うが、使用する薬剤の組み合わせの例を下記に示す。治療に反応しない症例やフラップの融解が強い症例では、フラップ切除を考慮する。

LASIK術後角膜感染症に対する初期治療例
早期発症(2週以内) 晩期発症(2週以降)
起炎菌 ぶどう球菌、連鎖球 非定型抗酸菌,nocardia,真菌
フラップ洗浄 バンコマイシン(50mg/ml) アミカシン(35mg/ml)
初期治療 ガチフロ® 1時間ごと点眼 ガチフロ® 1時間ごと点眼
ベストロン® 1時間ごと点眼 アミカシン(35mg/ml) 1時間ごと点眼
ビブラマイシン®100mg内服 ビブラマイシン®100mg内服

haze

PRKに代表されるsurface ablationでは、術後hazeとよばれる角膜上皮下混濁が生じることがある。hazeは種々のサイトカインが角膜実質細胞のアポトーシスや増殖・遊走をひきおこし、実質細胞に変性を生じさせる結果とされているが、レーザーの改良が進んだ現在では発生の頻度は少なり、またステロイドの点眼やMMC(マイトマイシンC)の併用により予防することが可能である。MMCの術中併用に関しては、0.02%MMCを10~30秒塗布することが一般的とされている。

術後長期的な合併症について

ドライアイ

エキシマレーザーを用いる角膜屈折矯正手術において長期的に最も多い合併症となるのはドライアイである。フラップ作成やレーザー照射によって角膜浅層の知覚神経層を障害させるためドライアイは一時的に悪化する傾向にあり、その後神経の再生に伴いドライアイは改善をみせるが、なかには長期にわたってドライアイの症状を訴える例が存在する。ドライアイは痛みなどの症状の他、視機能にも影響を及ぼすため、術前にドライアイが認められる症例には慎重に手術適応を選択する必要がある。

regression

角膜屈折矯正手術後には、長期的にregressionとよばれる屈折のリバウンドを生じる。当院ではLASIK術後10年で矯正量の平均約10%前後のregressionを認めており強度近視矯正後では次第に裸眼視力が低下する例もみられる。regressionの原因としては角膜上皮の過形成・実質の再合成によるとする説やレーザー照射によって薄くなった角膜がその剛性の低下によって前方偏移するとする説が有力とされている。regressionにより低矯正となった場合は、トポグラフィにてケラトエクタジアの有無を確認する他、調節麻痺剤を用い、調節緊張症の有無を確認する。両者の心配がなく残存角膜厚が十分残っており、再矯正を希望する場合は追加矯正を行うが、再度手術をすることに抵抗がある患者の場合、抗緑内障点眼薬であるβブロッカー点眼を使用することも有効とされている。ただし、老眼年齢になっている患者には、追加矯正による近方視の低下をきたす可能性を十分説明する必要がある。

ケラトエクタジア

ケラトエクタジアは医原生角膜拡張症とされ、LASIKなどのエキシマレーザー照射後に生じた角膜の不整な前方突出をいう。可能性がある潜伏的病変を術前に見つけ出し、手術を行わないことが最も重要であるが、スクリーニングにて検出できず不幸にも生じてしまう例が稀に存在する。発症した場合、近視化や不正乱視が増加するため、まず眼鏡やコンタクトレンズで矯正を試みる。ハードコンタクトレンズやコンタクトレンズ同士のpiggy back法にて矯正可能なこともあるが、極端な場合は角膜移植が必要なこともある。このように発症してしまった場合、非常に難治であったケラトエクタジアであるが、近年新たな治療法として角膜クロスリンキングが注目されている。角膜クロスリンキングは角膜実質内へリボフラビン(Vit.B2)を浸透させ、365nmの紫外線を照射することで角膜実質内のコラーゲンがクロスリンキング(=架橋形成)をおこし、角膜強度を向上させる治療である。この治療によって角膜強度は増加し、角膜形状変化が安定することが期待される。但し、術後にhazeの発生をみることがある。

外傷に伴うフラップトラブル

LASIK後のフラップは時間経過とともに接着を得るが、従来のの強度の接着力は得られず、術後数年経過しても外傷等によりフラップずれを生じることがある。ずれに伴いフラップの皺が強い場合には不正乱視を生じてしまう。当院では50%BSS (フラップ皺をのばすため蒸留水で希釈するのがよい)にてフラップを洗浄し、十分フラップ皺をのばし、11-0ナイロン糸にて必要な箇所を単縫合を行っている。フラップ洗浄後はフラップの接着が弱いため、治療用コンタクトレンズを装用し終了とする。その後フラップの接着状態を確かめながら、角膜トポグラフィをもとに抜糸を行い乱視を調整していく

レーザーに伴う角膜形状変化と視機能

エキシマレーザーによる近視矯正手術では必要最低限な角膜厚(ベッド厚250μm以上)を残すことができれば理論的には強度の近視矯正も可能である。しかし、強度の矯正を行えば角膜形状は通常のprolate(角膜中央がsteep、周辺がflat)形状からoblate(角膜中央がflat、周辺がsteep)形状へと変化し、眼球全体の球面収差は増加しコントラスト感度の低下を招く。そのためエキシマレーザーによる角膜屈折矯正手術では視機能を維持したうえでの矯正を目指す必要があり、長期的なregressionのリスクも考えると5D以下までが良い適応と考える。

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