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薬剤毒性角膜症

薬剤毒性の角膜への影響といっても幅広いが、本稿では臨床上最も多い角膜上皮への影響、つまり薬剤毒性角膜症に絞ってまとめてみたい。この薬剤毒性角膜症を理解する上では角膜上皮の動きをまず理解しておく必要がある。

角膜上皮の幹細胞は輪部の基底部上皮の一部が、それを担っている(図1)。いわば、角膜上皮の倉庫である。その幹細胞から分裂された細胞は角膜基底部に移動し、transient amplifying cellとして角膜上へ移動していく。角膜上皮基底細胞には分裂能があり角膜上皮は増加し、角膜上皮は時間とともに分化をしつつ基底部から最表層へと移動し、最表層から脱落していく。その間、角膜上皮は周辺部から中央部へと移動していく。つまり、角膜上皮は、増殖、移動、脱落という三つのメカニズムからホメオスターシスが成立しており、これがThoftの提唱したXYZ hypothesisである(図2)。現在、そうした理論はほぼ確認されていることから本邦では角膜上皮のXYZ理論と呼ばれる。その考え方をシェーマにしたものが図2である。

図1 角膜上皮の幹細胞

pic_1_07_01.png

輪部の基底細胞の一部が角膜上皮の幹細胞である

図2 角膜上皮のホメオスターシス XYZ理論

X(増殖)+Y(移動)=Z(脱落)が成り立って角膜上皮の恒常性が維持される。

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薬剤毒性の二つの進行パターン

点眼により角膜上皮が障害されると、まず角膜上皮の脱落が角膜全体で上昇するので角膜全体の点状表層角膜症が出現する (図3) 。XYZ理論でいえばZが増大した状態であり、YさらにはXが増大し、そのホメオスターシスが維持される(図3)。

更に点眼が継続されれば、Zが更に増大し、ホメオスターシスが成立するためには更にXもYも増大する必要がある。Xの増大は細隙灯顕微鏡で観察できないが、Yが増大した状況は細隙灯顕微鏡で、とくにフルオレセイン染色すると更に観察しやすくなる。Yが増大した状況ということは角膜上皮の移動が増大するということであり、それは、それがハリケーン角膜症もしくはVortex keratopathyと呼ばれる状態になる(図3)。

更に点眼の毒性が進むと、Zは更に増大する。しかしながら、これまでX、Yの増大でXYZのホメオスターシスが維持できたが、Zの著明な増大によりX、Yが増大するも維持できなくなり、X+Y<Zとなる。つまり、各幹細胞の増殖、移動で上皮の脱落を補ってきたができなくなり、上皮の移動が追い付かなくなり、それが地割れ状態となっていわゆるcrack line となって上皮欠損が出現する (図3) 。このcrack lineは通常は角膜下1/3あたりで出現する。

更に点眼が継続されれば、この角膜上皮欠損部は上方に拡大し、角膜潰瘍の状態となり、いわゆる遷延性角膜上皮欠損の状態となっていく (図3) 。

多くはSPKから進行するパターンで発症、進行するが、もう一つのパターンがあり、それは透過亢進性角膜症、もしくはその特徴からバスクリン角膜症とも呼ばれるものがある (図3-2) 。これは眼表面をフルオセインで染色してもSPKはないか、あってもわずかであり、染色直後はほとんど角膜上皮が染色されないのに、時間経過とともにフルオレセイン溶液が角膜上皮、更には実質内へ侵入するパターンである。これは上皮欠損はわずかか、もしくはないが、角膜上皮の細胞膜更にはtight junctionが障害されているために、そうした現象が起こるもので、その角膜上皮の細胞膜・tight junctionの脆弱性は点眼によって生じている場合である。塩化ベンザルコニウムによる障害は細胞膜主体の障害と考えられるが、いずれにしても、この状態は一見軽症と考えられるが、実は進行により広範囲の角膜上皮欠損が出現する可能性が高く注意が必要である。この状態は程度にもよるが注意深い観察で脆弱性がわかる場合もあり、詳細な観察は欠かせない。

図3 薬剤毒性角膜症の進行2パターン

1)SPKからの進行パターン

pic_1_07_03.png pic_1_07_04.png pic_1_07_05.png pic_1_07_06.png
SPK
X  ↑
Y  ↑
Z  ↑
X+Y=Z
ハリケーン角膜症
X  ↑↑
Y  ↑↑
Z  ↑↑
X+Y=Z
crack line
X  ↑↑↑
Y  ↑↑↑
Z  ↑↑↑
X+Y<Z
遷延性角膜上皮欠損
X  ↑↑↑
Y  ↑↑↑
Z  ↑↑↑↑
X+Y<<Z

2)透過亢進型角膜症

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SPKはわずかであるが、時間経過とともにフルオレセインは角膜上皮ないし実質へ侵入する。

薬剤毒性が生じやすい患者背景

薬剤毒性となる点眼薬も問題だが、こうした点眼を行う患者の背景によって薬剤毒性の発症しやすさは異なる。発症増加因子については表1に示した。こうした背景があると角膜上皮は脱落しやすく、その代償機能も低下しているので薬剤毒性による角膜上皮障害は来しやすい。

表1 薬剤毒性角膜症が生じやすい患者背景

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  • 角膜移植眼
  • 罹患期間の長い糖尿病
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