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コンタクトレンズと角膜

はじめに

コンタクトレンズの装用人口は我が国で約1,500万人とされており、日本人の10人に1人以上がコンタクトレンズを装用していることになります。その割合は若年層では更に高く、屈折異常の矯正方法として眼鏡に次いで広く普及した方法といえます。

コンタクトレンズは角膜の上にのせるものであり、眼表面に及ぼす影響は少なくなく、合併症を引き起こすこともあります。以前に行われた日本眼科医会の眼障害調査報告では、1年間のコンタクトレンズで10人に1人は何らかの眼障害を経験するとされています。

コンタクトレンズによる角結膜合併症

コンタクトレンズ装用による最も重篤な合併症は感染性角膜炎です。感染性角膜炎の誘因としてコンタクトレンズは最大のもので、放置すれば失明に至る疾患です。ただし、感染性角膜炎については別項がありますので、ここではコンタクトレンズに関連した特徴的な角結膜障害を供覧します(表1)。

 

(表1)コンタクトレンズに関連した特徴的な角結膜上皮障害

CLによるもの
 スマイルマークパターンのSPK
 3時9時ステイニング
 瞬目不全型SPK
 輪部結膜ステイニングとSEALs
 SLKとLWE
 CLPC (CLによる乳頭性結膜炎)
CLケア用品によるもの
 MPSによる角膜ステイニング
 無菌性角膜浸潤

スマイルマークパターンの点状表層角膜症(superficial punctate keratopathy以下SPK)と 3時9時ステイニング

この2つは乾燥によって生じる角膜上皮障害です。コンタクトレンズの種類によって乾燥しやすい場所が異なり、ソフトコンタクトレンズでは角膜下方の瞼裂に沿う形で上皮障害が生じやすくなります。SPKの形状からスマイルマークパターンのSPK と呼称されます。ハードコンタクトレンズでは、角膜の両脇部分、3時9時の周辺部が乾燥しやすくなり、 3時9時ステイニングと呼ばれます。ハードコンタクトレンズのベベル部分に周囲の涙液が汲み上げられる(盗涙現象)のために生じると考えられています。

スマイルマークパターン
3時9時ステイニング

瞬目不全型SPK

スマイルマークに似ていますが、より下方にシフトした角膜上皮障害が特徴です。ソフトコンタクトレンズ装用では角膜知覚の低下が生じ、瞬目が浅く不完全になりがちです。このため神経麻痺性角膜症や兎眼性角膜炎の軽症例と類似した角膜上皮障害がみられることがあります。

瞬目不全型SPK

輪部結膜ステイニングとSEALs

ソフトコンタクトレンズは角膜よりも径が大きく、輪部結膜にエッジが接触します。レンズのフィッティングがタイトな場合、乾燥などで変形した場合などには輪部結膜に染色所見(ステイニング)がみられるようになります。

輪部結膜ステイニング
 

極端な場合にはレンズが角膜に張り付いて動かなくなる状態、固着を生じます。レンズの固着が続くと酸素透過性のよいレンズでも急性の前眼部炎症(acute red eye syndrome)を生じることがあります。固着気味であることを示す重要なサインにsuperior arcuate epithelial lesions (以下SEALs)が挙げられます。角膜の周辺部、とくに上方に生じる線状、弓状の角膜上皮病変で、このサインをみた場合には固着を考えて、レンズのベースカーブやタイプの変更を行う必要があります。

SEALs(superior arcuate epithelial lesions)
 

SLKとLWE

コンタクトレンズは瞬目によって動き、球結膜や瞼結膜と擦れます。レンズの動きがスムースで、眼表面を保護する涙液の働きが十分な状態では問題はないのですが、時にレンズと結膜の摩擦による障害が生じることがあります。その代表が上輪部角結膜炎(superior limbic keratoconjunctivitis以下 SLK)とlid wiper epitheliopathy(以下LWE)です。

SLK (superior limbic keratoconjunctivitis)
LWE (lid wiper epitheliopathy)

SLK は上方の球結膜、角膜上方に限局した生体染色所見や結膜充血を特徴とする疾患です。甲状腺機能異常症など眼瞼に異常がある場合や上方の球結膜に弛緩がある場合に生じやすいのですが、ソフトコンタクトレンズ装用も誘因となることが知られています。

LWEは上眼瞼の瞼縁と眼球との「摩擦」が原因で生じる瞼結膜のエッジ部分の障害です。コンタクトレンズ装用者の原因不明の異物感の原因としてlid wiper (Marx’s lineからsubtarsal foldの間) に生じる上皮障害が報告され、LWEと命名されています。コンタクトレンズに伴うLWEは上眼瞼に多いですが、下眼瞼に生じることもあります。

CLPC

コンタクトレンズ装用に伴う眼合併症で頻度が高いのはドライアイであり、これまで述べてきた角結膜上皮障害はいずれもドライアイの範疇に入るものです。もう一つ頻度が高い合併症にアレルギーがあり、 contact lens-induced papillary conjunctivitis(以下CLPC)あるいは巨大乳頭性結膜炎(giant papillary conjunctivitis 以下GPC) と呼びますが、GPCの名称の方が馴染み深いかもしれません。上眼瞼の瞼結膜に乳頭増殖がみられ、異物感や眼脂、レンズの曇り、レンズがずれやすいなどが主な症状となります。

びまん型のCLPC
局所型のCLPC

CLPCはアレルギー性結膜炎の1種であり、レンズに付着・変性した蛋白がアレルゲンと考えられています。ハードコンタクトレンズよりソフトコンタクトレンズ、終日装用より連続装用、使い捨てレンズより頻回交換、頻回交換より通常型のレンズで頻度が高いことが知られています。しかしコンタクトレンズに沈着したタンパク量、種類による発症率、重症度の差はなく、発症機序に不明の点が残されています。たとえば、ソフトコンタクトレンズの主流となりつつあるシリコーンハイドロゲルレンズ(以下SHCL)は蛋白の付着が少なく、CLPC対策の切り札として期待されました。しかし、実際にはCLPCの発症率は、従来の2-hydroxyethylmethacrylate(以下HEMA)ベースのハイドロゲルレンズと差がないことがわかってきています。

ただし、CLPCは乳頭が瞼結膜にびまん性に生じるびまん型と瞼縁付近や中央部に限局する局所型に分けられるのですが、HEMAレンズで生じやすいCLPCはびまん型、SHCLでは局所型であることがわかってきました。びまん型は免疫・アレルギー反応を主体としており、局所型は機械的刺激を契機に生じた炎症反応が主体と解釈することができます。

レンズケア用品による角膜障害

レンズケア用品によって角膜障害が生じることもあります。過酸化水素を使ったレンズ消毒剤では、中和忘れで急性の上皮びらんを生じることがあります。

原因に気づきにくいものとしてはmultipurpose solution(以下MPS) による角膜障害があります。MPSは煮沸消毒に取って代わったソフトコンタクトレンズ消毒システムで、1本の用剤で洗浄、すすぎ、保存ができるというものです。防腐剤の1種を含有する生理食塩水がベースであり、防腐剤によると思われる角膜上皮障害(ステイニング)を呈することがあります。多くは無症候性ですが、角膜上皮のバリア機能は損なわれており、感染性角膜炎のリスクを高めている可能性があります。MPSが原因、誘因となって角膜周辺部に多発性浸潤を生じることもあります。遅延型過敏反応の一つと考えられています。

MPSによる角膜ステイニング
無菌性角膜浸潤

おわりに

コンタクトレンズに関連した特徴的な角結膜障害について概要を述べました。コンタクトレンズを快適に安全に装用してもらうためには眼科医による定期検査が重要です。とくに角膜専門医としては、レンズ装用に伴う眼表面の生理と病態を理解して、各々の合併症に的確に対処できることが求められます。コンタクトレンズは最も臨床的頻度の高い「角膜異物」ですから、レンズそのものにも眼表面の反応にも興味をもって診療にあたることをお勧めします。

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